川 本  将 人
2004 from MADEIRA to EDINBURGH
「私だけのロマンチックな街」
〜南国から北国へ〜

Madeira Lovers vol.2
                                     
「2004 Trip to Scotland」


EDINBURGH に滞在


ロイヤルマイルのパブの朝の風景






雪化粧したピットロホリーの駅。ここを訪れるのは2回目。
以前はもう一つの蒸留所「ブレア・アソール」を訪問した。


ラベルと同じ!!エドラダワー蒸留所




蒸留所内を流れる小川。ほんとに冷たそう…




絵本の中のような風景と思いません?




赤く塗られた扉が実にチャーミング。個人的にはスコット
ランドで一番「かわいい蒸留所」の称号を差し上げたい。





すべての設備がコンパクトにまとまっている。








昔ながらの冷却機




ポットスティルを下から眺めるとこんなです。

Feb.6(FRI)
今日は昼過ぎの便で一路ガトウィックを経てエディンバラへ向かう予定だ。この強烈な日差しとこれでお別れかと思うと寂しい。また必ず来るぞ!と決意を新たにホテルを後にした。タクシーで空港へ向かう途中、来た時と同じように窓から見る風景がまぶしく輝いていた。大西洋もここまで来ると違うものだ。アイラだって大西洋だからな…などと思っているうちに空港へ。出国でもここはスタンプを押すのだ。パスポートにフンシャルのスタンプが二つ。たいしたことではないが少し嬉しい。昨日ははしゃぎすぎたので今日はランチ・ワインはなし。少しウトウトしているとガトウィック到着。ほとんど待ち時間もなくボーディング・タイム。それにしてもガトウィックって人が少ない。しかしエディンバラ行きは満席だった。今日は週末、ロンドンに単身赴任のビジネスマン達なのであろうか、スーツ姿が目立った。そうか、帰るのかみんな。そういえば僕も帰るような気がしていた。いつものことだがスコットランド行きの飛行機に乗ると妙に安心する。離陸して少したった頃、ドリンクのサービスが始まった。何かミール・サービスはあるのだろうかと考えていたら驚いたことに小海老のサラダと暖かいパンのミール・サービス!しかも食器はチャイナ!もちろんEクラスなのに!少し得した気分で食べ終わると着陸態勢。
空港からタクシーでホテルへ。あー懐かしい聞きなれたあの英語だ。
何はともあれ一杯。ホテルのバーへ。カレドニアン80をパイントで注文。懐かしい味、美味い。

Feb.7(SAT)
ベーコン、ソーセージ、マッシュルーム、ベイクド・トマト、トースト…フル・ブレックファーストはスコットランドでの楽しみの一つだ。ここでしっかりとした朝食を取らないとこの寒さがしみる。
カノンゲート近くに宿を定めた今回、ケイデンヘッドや他のウィスキーショップに近い好立地。ブラブラと活動を開始。今日は寒く怪しい空模様だ。一雨来るかななどと思いながら2年ぶりにエディンバラの街へ。故事中のビルが多いのが目に付く。昔から変わらないところがほとんどなんだろうがこんなに工事中が多いのは何回か来ているうちで初めてだ。そういえば新聞に新しいビルがこの古い街にそぐわないと文句を言っている記事があったのを思い出した。僕も同感だ。ロンドンでもここでも、やたらコジャレタレストランが目に付く。あまり入る気にはなれない。青山あたりに行けばありそうな店にこんなところまで来て入ろうとは思わない。そう、おしゃれなのは東京だっておしゃれなのだ。コジャレタ店は何処に行ってもコジャレテる。そんなことを考えながらローズ・ストリートへ向かう。ここは別名酔いどれストリート(?)昔からパブが建ち並ぶ界隈だ。冷え込んでいる上に雨が降り出した、雪になるかもしれない。急いでパブへ入ってコーヒーブレイク。誰が見ても洒落てるもの、誰が食べても美味いもの…そりゃ似てくるのも無理はない。誰が飲んでも美味い…ウィスキーの世界はそうではない。天気は一向に持ち直しそうにないがパブを後にした。一番近い電話ボックスに入り二件電話をかけた。明日のためにエドラダワーへ、今日のためにソサエティーへ。もし、誰が飲んでも美味いウィスキーの基準なるものが出来上がったら、と考えるだけで恐ろしくなった。
いくら天気が悪いからといって日が高いうちからティスティングでもないのにウィスキーをやるのは気が乗らない。暇つぶしにウィスキーヘリテージセンターに行ってみる事にした。久しぶりに樽に乗っかって奇妙な人形達の間をうろつくのも悪くない。
確実にウィスキーは数年前に比べ、マーケットが大きくなっていることを感じた。人も多いし、全てがなんとなく立派になった。いくつかの部屋でビデオを見せられたり、蒸留所の模型を動かしているのをみたりして樽に乗せられた。ディズニーランドよりは大人が行ってもさまになるかもしれない。だが可愛い女の子を口説くには千葉に行った方がいい。もし可愛いウィスキーの呑みの女を口説くのならば話は別だが。終わりに近づいた頃、ふと手元にあるグラスの行き先が気になった。もうとっくに試飲でもらったウィスキーはなくなっていたがグラスだけはまだ微かなグラスアロマを漂わせながら僕の手におさまっていた。案内役の彼女が微笑んでグラスは持ち帰ってください、と告げた。それにしてもこの形のグラス、いろんな所で頂くが何故だろうか。
天気はまだ機嫌を直していなかった。キャノンゲートからカールトン・ロードに抜けてリース・ストリート〜リース・ウォークへ。この界隈は生活がある。特に立派なものもコジャレタ物もないが人々が暮らしている。品も良くはないかもしれないが、西川口住人には落ち着く界隈だ。ヴォルツの建物はいつ見てもいい。ハデではないがいい重みがある。
メンバーズ・ルームは何故か込み合っていた。カウンターで4.95を注文。寒い日に身体を温めるには最適の一杯、コーヒーをすすりながらゆっくりと楽しんだ。大きなフロアーに3人4人2人…など様々なグループが勝って気ままに楽しんでいる。ほとんどが西洋人だが僕を含め東洋人もいる。ある種不思議な空間だ。そういえば腹がへってきた。今日はパブで食事をすることにしてソサエティーを出た。
THE TASSはロイヤルマイルの角地にある。カレドニアンの美味いカスク・コンディションを飲ませるし、食事もこのクラスのしては上々だ。定番フィッシュアンドチップスを注文。素晴らしく美味いわけでもないが安心する味だ。カレドニアンIPAの杯を重ねているうち、外はますます雪の降りが激しくなってきた。今晩のバンドの到着も遅れている。何処からの観光客の団体か分らないが何故か大はしゃぎ。僕は少し疲れてタスを後にしてホテルに戻った。

Feb.8(SUN)
ホテルからウェーバリーに向かう途中、晴れてくれたことに感謝した。今日は北に向かう日だ。大雪だったらさすがに憂鬱になる。チケットを買う時にPITLOCHRYが通じなかった。紙に書いてくれと言われ書いたらすぐに分ったが発音が何とも厄介だ。日本語のピットロホリーでは到底通じない。久しぶりにパースを抜けてピットロホリーまでの旅。今日は昨日の雪のせいなのかいつもより草をついばむ羊達の数が少ないように思う。そんなことを思いながら到着。さすがにエディンバラよりも寒い。雪もかなり残っていて凍結している。バスで行くか歩いていくか。ひとまず町を散策。日曜日ということもあってまだ街は静かで店の多くは閉まっている。エドラダワー蒸留所2マイル半の看板。少しあるな、この寒い中を歩くのは勇気がいる。今日のところはタクシーにしよう。駅前のタクシーセンターへ。一台も見当たらない。それはそうだ目の前にあるタダの乗用車がタクシーなのだ。スコットランドの田舎町は大体こんな風なのだ。スカイ島に行った時もダフタウンもそうだった。雪に覆われた草原をぬって到着した。ラベルと同じあの赤い扉の建物、これには感動した。これだけ綺麗で得になっている風景ならば、それはラベルにしたくなるのも無理はない。ちょうどツアーの始まる時間だったのはラッキーだった。
他の蒸留所と同じようにキルンを改造してヴィジターセンターにしてある。ここでウィスキーを飲みながら、ビデオを見るのがここのツアーの始まりだ。ビデオはもちろん日本語もありなのだ。小さい蒸留所。全てが一つの建物の中に収まってしまう。今まで見た蒸留所からすると圧倒的に小さい。関心しながら説明を聞いていると、マネージャーが外にいるとの事。イアン・ヘンダーソンのことだ。去年の11月に日本のウィスキー・マガジン・ライブでお話したことを伝えるとすぐに呼んできてくれた。しばしスティルの前で立ち話。ラフロイグ時代には出来なかった様々な試みをこの小さい蒸留所で行なっているとのことだった。それらの試みの結果が我々の手元に届くまではまだ数年かかるようだが、今から楽しみだ。冬の間は訪問者は少ないかと訊ねたところ、意外といるとの事。今日もこの後、スペインからのツアーもあるそうだ。さっきイアンも言っていたがスペインやポルトガルが今、注目のマーケットらしい。
帰りの電車もあるのでタクシーで再びピットロホリーの駅へ。
町は数軒の店を除いて開いていた。みやげ物やを覗いて見たが特にこれといって面白いものもなく再びブラブラ。ALEの看板に惹かれふとわき道へ。古い水車のあるその名もオールド・ミル・イン。いかにも田舎の旅籠という感じ。地元のカスク・コンディションを注文。かなりダークな色合い、香ばしい味わいは素晴らしい。アルコールは軽めだろう。日曜の午後には申し分のない飲物だ。昼食はここでとることにした。「スパイシー・チキン・バップ」何か美味そうな感じ。バップ(?)は良く分らないがこれにしよう。要するにチキンバーガーこれも素朴な味でなかなか。昼下がりの日差しの中でまどろんで、そろそろ電車の時間。これを逃したら大変だ。
やはりエディンバラの方が幾分、暖かく感じた。マーケット・ストリートを渡り、コックバーン・ストリートを抜けてロイヤル・マイルへ。ところで、そのコックバーン・ストリートはなんとなく若者のストリートという感じがする。古着屋や雑貨屋などが並び、メキシコ料理レストランがあったりする、そんな不思議な空気。メキシコ…今晩はピニャコラーダにメキシカンにしよう!ただし、僕が行くメキシカンはキャノンゲートにある店だ。そろそろ若者ではなくなってきたらしい。一度ホテルに帰ってから出直しだ。

Feb.9(MON)
昨晩のメキシカンのヴェジタリアン・メニュは爽やかな朝を与えてくれた。飲み過ぎなかったのが良かったのかもしれない。
今日は主に仕入やその他の物の調達に動く一日。ウィスキーがいかにメジャーになってきたのかはウィスキー・ショップに行くとわかる。以前はケイデンヘッドのショップも人がいるのは時折だったが最近はいつ行っても外国のお客の顔がある。ウィスキーマガジンなどにもかかれている通リドイツ、北欧のお客さんが多いらしい。そんな中に混じって何本か購入。人気売れ筋のアイラを探すがあまり在庫がない。ダメもとで、以前来た時に購入したボンドリザーブのアードベックについてきいたところとっくにないとの事。アイラモルトは回転が速いらしい。しかしマイナースペイサイドは未だ良品がハーフボトルながら残っていた。マイナー蒸留所でも良品はあるなどと店員と意気投合。彼は最近ディーンストンの長期熟成物でいい物に当ったらしい。
セント・ジャイルズ大聖堂の前に店を構えるロイヤルマイルウィスキーは二年半ほど前にロンドンにも支店を出し鼻息が荒い。同系列のシガーショップも同じ通りにある。最近は自店詰めはあまりやっていないらしい。オールドもあるが価格は高い。数本購入するも以前のような面白みがなくなったことが少々残念だ。
ニュータウンの書店に行ったり、細々とした物を購入したりしてそろそろ夕方だ。今日はエディンバラ最後の夜。食事はビーハイブ・インのレストランを予約した。
ホテルに帰って荷造りを済ませた。ロイヤルマイルからグラスマーケットへ。この界隈は昔は処刑場だったらしい。処刑を見物に来る客相手のパブが流行っていったのだろう。今でもレストラン、パブ等が立ち並ぶ夜更かしな界隈だ。
パブでカレドニアンのIPAをハーフでやりながら、今夜の食事に思いを巡らせた。グラスのビールも残り少なくなった所で階上へ。可愛いスタッフがお出迎えだ。それにしても暗い店だ。雰囲気ではなくて照明。カスクと同じくらいだろうか。この暗さがいい。酒飲みにはたまらないレストランだ。食前酒は?ときかれハーフのグラスを指した。彼女は微笑みかけてメニュを置いて去っていった。
前菜はハギス、メインはラムのベリー系のソース。甘いものは好きではないが料理は別なのだ。注文を終え、ビールも無くなったのでワインにすることにした。OZのシラーズ。濃厚な果実味はベリーのソースに合うに違いないし、その野性味はハギスに合う。ヒュー・ジョンソンはニューワールドのカベルネ、クラレット、パプなどが合うと言っていたが僕の好みはシラーズだ。
ハギスは懐かしい味だ。ここを最初に訪れた時から虜になった。しかも、ここの店はマッシュポテトはことさら美味い。たかがマッシュポテトとは言わせない出来栄えだ。カスクでも何とかこれに近いものを出したいものだ。
ワインをすすりながら窓の外を見つめた。平日なので人は多く出ていない。処刑場…何故かまた思い出してしまった。良くも悪くも歴史なのだ。ふと耳に入る言葉が聞き慣れた言葉であることに気がついた。初めてこの店で日本人客と遭遇した。彼女らは食後に好いモルトウィスキーはないかと可愛い給仕係に聞いていた。彼女の答えはマッカランだった。
まもなくメインが登場した。たっぷりの温野菜を添えられてサービスされた。もちろん肉の方もボリュームたっぷりだ。美味い…甘いソースとの相性は最高だ。何故イギリスには美味いものが無いと言うのだろうか。僕には不思議でならない。確かに芸術的でもなんでもないがその素朴で、どこか懐かしく、心地の好いひだまりの中にいつまでもまどろんでいたい…そんな気にさせられるこの国の料理は不当な評価を受けているのではないか。
デザートは?また素敵な笑顔だ。お腹が一杯なのでデザートは遠慮して、ドランビュイでリキュール・コーヒーを注文した。アイリッシュ・コーヒーのリキュールヴァージョン。寒い国のデザート・ドリンクとしては格別のものだ。
テーブルで会計を済ませビーハイブインを後にした。食後の楽しみが足りない。エディンバラでも一二を争うスコティッシュ・パブ「ボウ・バー」に立ち寄った。
相変わらずむさくるしい店だ。客は男同士や男一人の客ばかりだ。ただカウンターの中は華やかだった。二人のバーメイドが気持ちよく働いていた。ベルヒーヴンの80のパイントを注文。これは色が濃く、コクのあるタイプにエールだ。スコットランドで最初に覚えた銘柄だった。いつもこれをやると最初にここへ来た時のことを思い出す。ウィスキーの魔力にとりつかれ、この地にまでやってきた。それからというもの何度もこの地に足を運んでいる。今はウィスキーだけが私を惹きつけているのではない。このパブでの一杯、空気の澄んだ寒い朝、素敵な笑顔のバーメイド、決してスタイリッシュとは言い難い若者達、元気な年寄り、街角のバグパイパー、理屈っぽいのんべい、かみさんに頭の上がらない気前のいい旦那、…、…、そして一杯のウィスキーはやはり外せない。
さぁ、何を呑むか?カウンターへへばりついた。ケイデンヘッドの手書きのラベル、蒸留所名はAUCHROISKの文字が手書きで見える。エディンバラ最後の夜はこの一杯に決めた。ベルヒーヴンをチェイサーに楽しんだ。
帰り道は寒さを感じなかった。
「度々前を通るのですがあなたはいったい…」セント・ジャイルズ大聖堂の前で立ち止まり誰かの銅像に話しかけてみたが答えてくれなかった。
エディンバラには色々な銅像がある。しかしそれが誰なのか今まで気にとめたこともなかったが一人だけよく知っている人がいた。サー・ウォルター・スコット、エディンバラ出身の作家だ。彼曰く、エディンバラを表して「私だけのロマンティックな街」と。
私にも少しだけ分けてくれましたね、エディンバラの不思議な魅力を。
東洋人の風変わりな酔いどれは足取りも軽く、ロイヤルマイルをキャノンゲート方面に下って行った。