Behind the BAR | ||
バー・オーナーの憂鬱そして喜び 「収集癖」 |
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2001/11/15号 |
今回は、「お酒を集めること」をテーマにしてみました。 バーを営む同業の方にしても、お客様にしても当店のバックバーを見るなり「よく集めましたね。」と言われることが多い。 これは私の収集癖のせいなのか… 今まであまり考えたことも、お話したことも無かった、酒コレクションの変遷と今後の展望について書いてみました。 |
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「収集癖」 | ||
バー・オーナーの憂鬱そして喜び 〜収集癖 およそこの世の中には、様々な物について収集家と呼ばれる人々がいる。 「××コレクター」 勿論ここで取り上げようとしているのは、「酒コレクター」についてである。 私も自他共に認める「酒コレクター」である。バーの経営者がこれであることは、比較的一般的な事で、私の知り合いのバーのオーナー達は多かれ少なかれ大抵、コレクターだ。しかし、面白いことにこの収集癖がお店を繁盛させるポイントになっている部分もあれば、まったく逆に儲からない原因にもなっている????? 最近、久しぶりに再会したバー仲間との会話。 「バーの経営って、究極の自転車操業かもしれないね。」 「まったく。(笑)」 「酒売って、また酒買って。毎日食べられているからいいんだけどね。」 「ほんとに!!」 以下、HIDAMARI時代から現在までのバックバーを振り返り、その変化を探ってみる。 決して酒を集めるのが好きだから、この仕事を選んだわけではなく、仕事をしているうちに収集家になっていった。少なくとも私の場合はこうである。BARと言う看板を掲げて商売をしていると様々な人が入ってきて、様々なオーダーを受けることになる。 「何とかって言うカクテルはあるか。」 「×××っていうウィスキーをこないだ飲んだけど、無いの?」 「アブサンって、どんなお酒なんですか?」,...etc...etc... こんなオーダーをされるうちに、「何とかできるだけリクエストの答えたい。」「お客さんの希望する物を提供したい。」なんて思っているうちにバックバーの在庫は膨れ上がっていく… これが、初期症状。 次は、次第に繰り返し顔を見せてくれるお客さんが増えていって、それぞれのお客さんの好みに合わせて深く掘り下げて行く…で、また在庫が増える。 さらに、在庫が膨らんでそろそろ整理しなくてはならなくなって、アイテムを絞っていく。 そうすると、 「あれなくなっちゃったんだ。好きだったのにな〜」 なんて声がお客さんから聞こえて、バックバーの在庫状況は一進一退を繰り返す。 これくらいで概ね、バーとして5年以上経っている。そろそろ、商売のことも真剣に考えなくてはいけない、お客さんもなじみの人が多くなる、お客さんとのコミュニケーションも取れるようになる、と言うような訳で今度は、店主の主張が入った品揃えを目指す… 以上が現在までの状況。 これから先どうなるかは未だ、私にははっきりとした事は、ワカリマセン。 しかし最近、若干の変化が… 楽しむための収集。 「こんな場面で、あんな人が、こんな感じで飲むといいんだよな、このお酒。」 なんてことを考えることが最も楽しくなってきた昨今。また一つ、次のステージへ向かっての収集が始まったような気配です。 でも、次のステージは今までと少し勝手が違っていて、それを楽しむ人々、場面、空間を創造することが最も重要で、これなくしては目的は達成できない。 つまり、お客様との共同作業。 Our Houseを訪れる最高の私共のゲストをもてなす、最高のホスト、ホステスを目指して日々精進… そして、日々収集(?)。 本当に奥の深い仕事です。 と言うわけで、この収集癖はなんとも厄介なもので、「止めたい」と思いつつ止められず。なのです。 *Our House…英国でパブや旅籠などで働く人々は自店のことを、大抵このように表現することが多いようです。 Our Pub とかOur shopでは無くてOur Houseなんて、なんとも素敵な表現だと思いませんか? 今回はこれにて。それではまたの機会に… ![]() |
![]() セラー・ブック・メモ セインツベリー 教授のワイン道楽 ジョージ・セインツベリー *著 山本博 *監修 田川健次郎 *訳 紀伊国屋書店 |
「アルコール飲料がいつの時代においても最も強く、最も賢く、最も美しく、 すべてに秀でている人々に消費されてきたことは、 すべての歴史が証明している…」 我がC&Sの紹介の折にも度々引用させていただいている。この大変有難いお言葉。何を隠そうこのセインツベリー教授のお言葉に他なりません。収集家の神様みたいな人です。こんな風に上手にお酒と付き合って、教授のように人々をもてなすことが出来たらいいな、と思わずにいられません。邦題ではワイン道楽なんて言葉が入っているのでワインについてだけ書かれているような印象を受けますが、モルト・ウィスキーやバス・ペール・エールなんかも登場して、19世紀後半から20世紀初頭にかけての英国の酒事情の記述も実に興味深いものがあります。何が無くても、洋酒を嗜む者としてはこの本は必携の一冊です。 |